この勉強会は古志青年部有志によるものです。出席者は「古志」誌の「投句欄」「同人の一句」「一日一句」のすべての句にしっかりと目を通した上で合評を行 います。それぞれが感銘した句、勉強になった句をとり上げます。あらかじめ「投句欄」の中から十句を選んで持ちよります。そのほか「同人の一句」「一日一 句」についてもふれます。第二回以降は毎回、青年部外からゲストを迎えて行っています。今回のゲストは静岡支部長の村松二本さんです。

 

投句欄より

枯葉道さくさく踏みて香らせん 井倉勝之進
麻衣子:香らせた、という結果報告ではなく、「香らせん」と意志として読んでいるところに惹かれた。周りにともに香りを楽しんでいる他者の存在が感じられる。粉々にするとよけい香ってくる枯葉。楽しい雰囲気が伝わる。
主宰:童心に返った大人の気持ちが出ている。さくさくに軽やかな様子がある。

寒の水くらくら沸かし茶をいれん 岡崎陽市
二本:「くらくら沸かし」という言い方が新鮮で、いかにも寒の水と感じた。茶には人生が重なるがこの句にも生き方が重なっている気がした。「貫道するものは一(いつ)なり」という言葉に繋がっているような。
主宰:「寒」にぴりっと引き締まった気持ちが感じられる。

大海のひとしずくなる海鼠かな 岡崎陽市
きつね:海鼠に違ったイメージを与えられた。ただのしずくではなく「ひとしずく」と言ったことで、海のしぶきがそのまま海鼠になったように感じました。
麻衣子:海をぎゅうっと凝縮したようですね。

水のつぶ光のつぶや冬木の芽 羽野里美
麻衣子:冬木の芽のこれから萌える生命感が出ている。難しい言葉は使われていないのに、生命の神秘すら感じさせる。世界がきらきらした印象。
二本:普通こうやって言えない。単純化に挑戦している志向に共感した。

赤蕪赤深々と漬かりたる 大河原晶子
二本:蕪がうまそう。味が十分に染みこんだ蕪をこれから食べるところ。a音とk音の繰り返しも効果的。色が鮮明に伝わる。
主宰:蕪漬けを真っ正面から捉えた。

この星の動き動きて懸大根 峯実理幸
麻衣子:ダイナミックな句。大根の種を蒔いて、葉っぱが繁って、大根が実って、抜く。それを「この星の動き動きて」で全てを表しているざっくりさ。
主宰:たとえば「回り回りて」等と限定していうよりも「動き動きて」とざっくりと描いた方が広いニュアンスが出る。「回り回りて」も含むすべてのこの星の動きを表すことができる。「この星」と大きいとらえ方をしているけれど、最後に「懸大根」と置いて生活にぐっと引き寄せたことで、根っこのある句になった。

歳十九歌留多のやうな恋をして 片山ひろし
二本:歌仙に恋の句ででてきそう。つい後に付けたくなる。「歌留多のやうな恋」忍ぶ恋なのだろうか。

呼びとめるかはりに投げる雪つぶて 森恵美子
きつね:恋の句だと思いました。呼び止めたいけど声に出せない想いがあって雪を投げた。
二本:雪つぶてを投げられるような原因を作ったのかもしれないね。からかっている、じゃれている様子。
麻衣子:相手の気をひきたいのでしょう。
主宰:二人の関係についてストーリー性を感じさせる。自由に読者が想像できる。

豆撒いて一人暮らしをすると言ふ 上田りん
麻衣子:息子または娘に豆撒きをしているときにぼそっと宣言された。「豆撒いて」により、家の中と外を感じさせる。背後の人間模様がよく見える句だと思った。
きつね:転換が大きくて面白く、はっとさせられました。

這ひ這ひに皆ついてゆく恵方かな 関根千方
二本:めでたい。赤子が進んでいくところを恵方と断定した。
麻衣子:赤ちゃんをきゃーきゃー言いながら家族みんなで追いかけていく様子が見える。
主宰:一家の中心が赤子になっている。

雪国に嫁して十年燗上手 西ゆうら
二本:旦那の好みの温度にできるようになった。ちょっと自慢もあるかもしれない。
主宰:「燗上手」と言い切る心持ちがいいですね。

 

同人の一句より
天竜の風腹いっぱいに鯉のぼり 髙平玲子
麻衣子:たとえば飴山先生の「早鞆の風に口開け燕の子」は、句全体の立ち姿がフレッシュな感じ。一方こちらは鯉のぼりが堂々とした力強い句。鯉のぼりを褒め称えている。

信濃路は白き峰々鯉のぼり 清水薫
二本:白き峰々を読んだ句は多いが、その風景に鯉のぼりを配した。

金太郎のやうな先生柏餅 菅谷和子
二本:若い先生、先生になりたての先生。昼休みなどに、子供達にかこまれている新任の先生の姿が浮かんだ。これは柏餅じゃないといけない。

夫のため味噌餡もあり柏餅 平有里子
きつね:味噌餡を好む人がいるからこそ、味噌餡も買った。柏餅はみんなで食べるもの、という前提が好ましく感じられました。

 

一日一句より
好きな柄告白し合ふ猫の恋 西川遊歩
きつね:猫同士が好みのタイプを言い合っている。猫のタイプを柄に着目したところが面白かったです。動物の視点に立って作ろうとなさったのだなと。

春隣あひるを追うて人の声 林田裕章
二本:こう言われると、もうすぐ春だな、と感じさせられた、あひるがいるということで、どんな暮らしかも伝わる。

白梅や忽ち毒気抜かれたる 林田裕章
紅梅や少しく毒気戻りたる 林田裕章
麻衣子:「一日一句」ならではの句の並べ方の面白さ。白梅はしゃきっと襟を正した感じ。でも次の日にはもう前の日に抜けた毒気が戻ってしまった。紅梅には色気が感じられる。白梅と紅梅の持つイメージの違いを言い当てている。

ZOOに行く一人吟行二月尽 水岩瞳
二本:フレーズがうまくぱかっとはまっている。動物園ではなくZOOを使っているのが上手くいっている。カタカナを積極的に取り入れようとしている姿勢が感じられる。

風呂吹を煮かへす箸をねんごろに 安藤久美
麻衣子:煮崩さないように丁寧に丁寧に煮かえしている。おいしそう。

目つむりて体の芯へ生姜酒 安藤久美
二本:実感がリアル。体の中に染みてゆく生姜酒。

 

 

村松二本
今朝もまた天気予報の雪達磨    武藤主明(福島)
赤蕪赤深々と漬かりたる     大河原晶子(埼玉)
這ひ這ひに皆ついてゆく恵方かな  関根千方(東京)
歳一九歌留多のやうな恋をして  片山ひろし(東京)
立春や妻と卓球再開す       氷室茉胡(京都)
寒の水くらくら沸かし茶をいれん  岡崎陽市(愛媛)
枯葎雀飛び込みそれつきり      伊藤寛(山形)
初売りや米寿の母も店に来る   宮本美英子(福島)
雪国に嫁して十年燗上手      西ゆうら(新潟)
甘酒の鍋も運んで雪祭り    吉田詩葉子(北海道)

丹野麻衣子
水のつぶ光のつぶや冬木の芽   羽野里美(神奈川)
落とすべき厄も無くなり豆を撒く  内田朋子(新潟)
枯葉道さくさく踏みて香らせん  井倉勝之進(奈良)
煮凝の白一点の目玉かな     竹野いさお(石川)
この星の動き動きて懸大根     峯実理幸(愛知)
豆撒いて一人暮しをすると言ふ   上田りん(埼玉)
卒寿の手恋のかるたを飛ばしけり  高渕秀嘉(静岡)
わが家をゆさぶることく福は内   神谷信子(兵庫)
七草のいづれか知らず粥に入れ   安斉奈緒(東京)
立春やけふ遠富士の見えずとも   軍地四郎(千葉)

市川きつね
大杉へ地酒まゐらす山始      真坂道夫(東京)
寒き日は寒の十句と遊ぶかな   那珂侑子(神奈川)
静かなる象の足音すみれ草     髙平玲子(静岡)
寝そびれて火鉢かかへてゐるところ 鈴木一雄(岡山)
食積の棒鱈かたき家郷かな     田宮尚樹(兵庫)
地球儀を欲しがる母の初笑    藤岡美恵子(兵庫)
大海のひとしづくなる海鼠かな   岡崎陽市(愛媛)
冬菜売る手のひら厚き女かな   遠藤めぐみ(東京)
春雨の音はつきりと雪になる   上野好子(神奈川)
呼びとめるかはりに投げる雪つぶて 森恵美子(広島)

 

【出席者】

大谷弘至:主宰 1980年生まれ 句集『大旦』
村松二本:自選同人、第一回古志俳論賞受賞 句集『天龍』
丹野麻衣子:自選同人、第三回飴山實俳句賞受賞 1974年生まれ
市川きつね:青年部副部長、第二回石田波郷賞準賞 1987年生まれ

 

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